水色について


澄んでいく記憶の端から
水色の汽車が走り出します
ため息や欠伸といった
水によく似たものたちを
揺れる貨車に詰め込んで
透きとおる空の下
滑らかなレールの上
どこまでも
どこまでも
水色の汽車は走っていきます
悲しくないときでも
涙は流れるようです



小さな女の子が
水色の目覚まし時計を
右の耳にあてています
長い針と短い針が
ゆっくり
ゆっくりと
廻る場所で
秒針だけが人間みたいです
水色の目覚まし時計からは
小さい生き物の
心臓の音がしました



今年も水色の巣箱に
ツバメが帰って来ます
あるいはもう
帰ってきているかもしれません
ぽかん
と口を開けて
男の子が空を見上げています
その空にも
ぽかん
と大きな穴が開いています
お父さんが
鳥の骨はとても軽いのだ
と教えてくれました
よかった
還る場所があって



心とはなにか
そんな有りふれた問いに
あなたは
なんと答えるのでしょうか
わたしは
水色のなにかだと答えます
大切ななにかを思い出した
と言うときの
なにか
としか呼ぶことができないもの