目の前でゆっくりと死んでいくあなたが、トーストにマーガリンを塗る朝の食卓で


鈴木が首を吊ったという知らせをうけて
テーブルの上を見てみれば
なるほど
胡椒入れの横で
鈴木が首を吊っているから
いたたまれない気持ちになって
伸びきった首を掴んでロープを外してやると
鈴木嬉しそうにキャンキャン吠えて
テーブルの上を走り回って
季節はいつのまにか冬になって
鈴木真っ白な雪の上に
小さな足跡をつけながら走っていく
鈴木の後ろを追って
まだ新しい雪に足をとられながら
走っていくわたしのことなんか
振り返りもしない鈴木の背中が
大きくなって
小さくなって
また大きくなって
追う者と追われる者の関係は
もうすっかり消え果てて
それでも
走って走って走りつづけて
いつかの春の河原を越えて
饐えた臭いのする体育館を駆け抜けて
色とりどりの店が並ぶ商店街を突っ切って
走って走って走り続けたい
と願うわたしの足は
ゆっくりと固まってゆき
それでも鈴木は走りつづけて
みるみる小さくなっていく鈴木の
首には太いロープが巻かれていて
救う者と救われる者の関係は
正しく意味を失ってゆき
もう追いつくことのできない鈴木の姿が
テーブルの何処にもないことに気が付いて
目の前で不思議そうな顔をしているあなたの
首のあたりを眺めている